「法人成り(法人化)」を検討中の個人事業主様へ:税理士が解説する法人成りのメリット・デメリット

「法人成り(法人化)」を検討中の個人事業主様へ:税理士が解説する法人成りのメリット・デメリット

個人事業主として事業を拡大されてきた皆様、事業のさらなる発展をお考えの中で、「法人成り」という選択肢が頭をよぎることはありませんか? 法人成りは、事業の成長フェーズにおいて非常に有効な手段となり得ますが、一方で考慮すべき点も存在します。

税理士の立場から、法人成りの基本的な概要から、検討の具体的ポイント、手続きフロー、タイミングまでを詳細に解説いたします。

 

1. 法人成りの主なメリット

■税務メリット

法人成りにおける最大のメリットの一つは、節税の可能性が広がることです。

  • 所得税から法人税へ:

個人事業主の場合、事業所得には累進課税が適用される所得税がかかります。

所得税の税率は5%から始まり、最高税率は45%となり、所得が増えるほど税率も高くなるため、事業の成長に伴い所得が増加すると、税負担が重くなります。

一方、法人の場合には利益(所得)に対して23.2%の税率で法人税が課されます。資本金が1億円以下の中小法人の場合には、年間800万円の所得部分については15%の税率で課税され、800万円を超える部分は23.2%で課税されます。

所得金額によりますが、所得が大きくなってくる場合には、法人税の方が有利になるケースが多くなります。

国税庁サイト_所得税率

国税庁サイト_法人税率

  • 経費の範囲の拡大:

法人では、個人事業主では認められにくい項目も経費として計上できる場合があります。例えば、役員報酬や退職金、生命保険料、社宅なども経費として認められるため、個人事業主に比べ課税所得を圧縮しやすくなります。

  • 欠損金の繰越控除の活用:

青色申告をしている個人事業主の場合、その1年間の事業活動で損失が生じた場合、その損失は翌年以後3年間繰り越すことができます。

一方で法人の場合には、翌期以後10年間繰り越すことができます。

この繰越欠損金制度とは、税務上の赤字が出た場合、翌期以降の利益とその赤字を相殺できる制度です。

そのため、個人事業主の場合には3年間で欠損金が期限切れとなりますので、欠損金を使い切れないこともあるかもしれません。法人の場合には10年間繰り越すことができるため、個人事業主に比べ、欠損金を使い切れないリスクは少なくなります。

国税庁サイト_青色申告制度

国税庁サイト_欠損金の繰越控除(法人税)

  • 消費税の免税期間:

法人設立後、一定の要件を満たせば、設立から最大2年間は消費税の納税義務が免除される場合があります(設立時の資本金1,000万円未満など)。これにより、資金繰りに余裕を持たせることができます。

 

■社会的信用の向上

法人は個人事業主に比べて、対外的な信用度が高いと一般的に認識されています。

  • 金融機関からの融資:

一般的に、個人事業主よりも法人成りをしたほうが社会的な信用があると言われています。金融機関から融資を受ける際にも個人事業よりも法人の方が融資を受けやすくなる傾向があります。

  • 取引先との関係:

大手企業との取引では、法人であることを条件とするケースも少なくありません。法人化することで、新たなビジネスチャンスが生まれる可能性があります。

  • 採用活動:

求職者にとっても、法人組織であることは安心材料となり、優秀な人材の確保につながる可能性があります。

 

■事業承継のしやすさ

個人事業主の場合は、事業主がなんらかの理由で仕事ができなくなってしまうと廃業の恐れがあります。将来的に事業を承継することを考えている場合、法人の形であれば事業承継が比較的スムーズに行えます。社長の交代や株式の譲渡によって事業を承継できるため、個人事業に比べて手続きが簡素化されます。

 

■有限責任

個人事業主は、事業上の債務について無限責任を負います。つまり、事業の失敗や債務の返済ができなくなった場合、個人の財産も弁済に充てられる可能性があります。

一方、株式会社などの法人の場合には、出資した範囲内での有限責任となります。

このように、賠償範囲を制限することができるため、万が一の際に、個人の財産が守られるというメリットがあります。

 

■決算期を任意に設定・変更ができる

個人事業の場合には、1月1日から12月31日までの利益を確定申告することによって税金を確定させることになります。この1月1日から12月31日までの計算期間を変更することができません。

一方で法人の場合には、会計期間を定款で自由に定めることができ、決算期をご自身で決めることができます。また、法人の場合には、定款変更等の所定の手続きを経ることで決算期の変更も行うことができます。

そのため、売上が1年間を通じて毎月平準的に計上されず、特定の時期に売上が多く計上される会社の場合、売上が多く計上される時期を事業年度の最初の方になるように決算期を設定することで、事業年度の後半で節税対策を講じることも可能になります。

また、繁忙期を考慮して忙しくない時期に決算期を設定するということも可能になります。

 

2. 法人成りの主なデメリット

■設立・維持コスト

法人を設立するには、登録免許税や定款認証費用など、一定の設立費用がかかります。

設立費用は、株式会社の場合には約20万円、合同会社の場合には約10万円が最低でもかかることになり、資本金にもよりますが、株式会社の場合には20~30万ほどの費用がかかることが一般的になります。

また、設立後も、税理士報酬、社会保険料、各種登記費用など、個人事業主にはない維持コストが発生することになります。

 

■会計・税務の複雑化

個人事業主の場合には、特殊な申告を除いてご自身で申告しているケースも多いかと思います。法人の会計処理は、個人事業主の確定申告に比べて非常に複雑になります。

専門的な知識が求められるため、ご自身での処理が難しいケースが多く税理士への依頼が必須となる場合がほとんどです。また、決算や各種申告書の作成にも手間と時間がかかります。

 

■社会保険への強制加入

個人事業主は国民健康保険料と国民年金保険料を納付することになります。

法人は、原則として健康保険と厚生年金保険への加入が義務付けられています。これにより、1人社長の場合でも社会保険への加入は必須となりますので、役員報酬を受け取る場合には社会保険料を支払うことになります。

その場合の保険料は、会社負担と個人負担を合わせると給与の30%程度になります。

一般的には、個人事業主が支払う保険料の合計額より、会社が支払う社会保険料(会社負担と個人負担の合計額)の方が多くなります。

 

■赤字の場合でも課税される

事業が赤字になってしまった場合、個人事業主であれば所得税や住民税の負担はありません。一方で法人の場合には、赤字の場合であっても法人住民税均等割という税金が課税されます。これは、資本金と従業員の規模に応じて税額も大きくなります。

資本金が1,000万円以下で従業員が50人以下の場合、東京都の場合には年間7万円が課税されることになります。

 

■廃業手続きの煩雑さ

万が一、事業を廃止するとなった場合、個人事業の廃業届提出に比べて、法人の解散・清算手続きは非常に複雑で時間もかかります。

また、清算時は設立時と同じくらいコストがかかることになります。

 

3. 法人成りの検討タイミング

法人成りを検討する最適なタイミングは、事業の状況によって異なります。一般的には、以下の点が目安となります。

■個人事業の所得が500万~800万円を超えたあたり:

個人所得税は、所得金額が330万円以下の場合には住民税とあわせても20%未満となりますが、所得金額が330万円を超えると30%の税率を使用する部分が出てきます。

一方で中小法人の実効税率は約35%程度となりますが、所得金額が800万円以下の場合には軽減税率が適用されるため、所得金額が400万円以下の場合には約22%、所得金額が400万円超800万円以下のレンジの場合には約24%となります。

そのため、この辺りの所得水準から税率が個人>法人と逆転することになるため、一般的には所得が500万円~800万円を超えたあたりを目安に検討してみるものいいかと思います。

 

■売上が1,000万円を超えたタイミング:

消費税の納税義務については、2年前の課税売上高か、前年の前半6カ月の課税売上高が1,000万円を超えると、消費税の納税義務者となります。

そのため、消費税の免税事業者である個人事業者が上記に該当する場合には、消費税が課税されることになります。一方で法人成りをして新設した法人は、個人事業主時代とは別の人格という扱いになりますので、個人事業主時代の売上高は関係ありません。つまり、法人成りをすることで、最大2年間は消費税の納税義務が免除されることになります。

ただし、法人の設立時の資本金が1,000万円以上の場合には免税事業者とはならず消費税の課税事業者となります。また、設立2年目において資本金が1,000万円以上または前年の前半6か月の売上高または給与等の総額が1,000万円超となる場合には課税事業者となりますので、ご留意ください。なお、インボイス発行を行う場合は、課税事業者になり、インボイス発行事業者として登録を行う必要があります。

 

■将来的に事業規模の拡大や多角化を考えている:

売上規模的には大きくなくとも法人の方が対外的な信用力は高くなるため、取引先・融資・人材確保等を考慮して事業拡大を考えている場合には、個人事業の場合には規模の拡大において信用力等が弊害となることもありますので、売上に関係なく法人成りを検討してみるのもいいかと思います。また、法人でしか受けられない補助金や助成金を利用することができるのも法人化の強みとなります。

 

4. 設立手続きの流れとスケジュール

法人設立にかかる期間は、最低でも株式会社で2~3週間程度、合同会社で2週間程度かかることになります。法人設立の一般的な流れとしては下記になります。

  • 会社形態の選択(株式会社/合同会社)
  • 定款の作成・認証
  • 法務局への登記申請
  • 税務署・都道府県・市区町村への届出

青色申告承認申請、給与支払事務所等開設届、設立届出書など


まとめ

法人成りは、事業をさらに発展させるための強力な手段となり得ます。節税効果や社会的信用の向上など多くのメリットがある一方で、設立・維持コストや会計処理の複雑化といったデメリットも存在します。

ご自身の事業の状況、将来の展望、そして何よりも「法人成りがご自身の事業にとって本当に最適な選択肢なのか」を慎重に検討することが重要です。

弊法人では、皆様の事業状況を丁寧にヒアリングし、法人成りのシミュレーションから設立、その後の税務顧問まで、一貫したサポートを提供しております。

また、創業期限定の料金プランもご用意しておりますので、法人成りについて少しでもご興味がございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

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