【税理士が解説】決算賞与(未払賞与)の税務上の取り扱い、メリット・デメリット

■ 決算賞与とは

決算賞与とは、企業が決算期末における業績や利益状況を踏まえて、従業員に対して一時的に支給する賞与のことを指します。通常の夏季・冬季賞与とは異なり、節税効果やインセンティブ目的で決算前後に支給されることが特徴です。

本記事では、決算賞与のメリット・デメリット、支給時の留意点について税務上の取り扱いの観点を含め解説いたします。

 

■ 税務上の取り扱い(損金算入要件)

通常賞与の損金(法人の経費)算入時期は実際に支給された日の属する事業年度が原則となりますが、下記の一定の要件に該当する賞与については賞与が未払であっても損金算入が認められております。(法人税法施行令72条の3)

国税庁サイト_使用人賞与の損金算入時期

 

  1. 労働協約または就業規則により定められる支給予定日が到来している賞与
  • 使用人に賞与の支給額が通知されていること
  • 支給予定日またはその通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること

損金算入時期:その支給予定日またはその通知をした日のいずれか遅い日の属する事業年度

 

  1. 次に掲げる①~③の要件のすべてを満たす賞与
  • 支給額の通知:各人別に、かつ、同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知をしていること
  • 1月以内の支給:通知したすべての使用人に対しその通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること
  • 損金経理:通知した支給額を、その通知をした日の属する事業年度において損金経理していること

損金算入時期:使用人にその支給額の通知をした日の属する事業年度

 

通常、決算賞与については、上記の2つのうち2のパターンの方を指すことが一般ですので、以降は2のパターンを前提にお話いたします。

なお、こちらはあくまで雇用者である使用人に対するものであり、役員に対する賞与については基本的に事前確定届出給与等の要件を満たさない場合には、損金に算入することが出来ないので注意が必要です。

 

■ メリット

  1. 節税効果

一定の要件を満たした決算賞与を支給することで、損金算入することができ、当期の利益を圧縮し、法人税等の税負担を軽減することができます。

  1. 従業員のモチベーション向上

業績に応じたインセンティブ支給は、従業員の仕事に対するモチベーションを高め、その他にも組織への帰属意識を高め、離職防止や生産性向上等につながります。

 

■ デメリット

  1. 社会保険料・源泉税の負担増

賞与として支給する以上、健康保険・厚生年金や所得税が増えることになります。また、賞与支給分により企業が負担する社会保険料も増えることになりますので、実質コストは支給額以上となるので注意が必要です。

  1. 経理の手間が増える

税務上、損金算入の要件を満たすために各人別ごとにすべての使用人への通知を行うことが要件とされているため、決算時期の忙しいタイミングで経理の負担が増えることになりますので注意が必要です。

  1. キャッシュフローの圧迫

1ヶ月以内の支給が必要となるため、資金繰りの事前検討が必須となります。利益だけを見て判断すると納税資金やその他予想していないキャッシュアウトと重なり、手元資金を圧迫することになりますので注意が必要です。

 

■ 損金算入が認められないケース(税務上の留意点)

以下のケースの場合には、未払計上したとしても損金算入

  1. 決算賞与の通知をしたが支払いを受けられない人がいる場合

使用人全員へ決算賞与の通知をした後、退職をして支払いを受けられなかった人がいる場合には、決算賞与は損金として認められないことになります。

  1. 就業規則等で賞与は在籍者のみに支払うと決めている場合

決算賞与の通知から支払いまでに退職者が1人もいなかったとしても、就業規則等で支給日前に退職した場合には賞与が支給されないと規定している場合には、決算日時点では未払いの決算賞与額が確定していないものとみなされ、決算賞与は損金に認められないことになりますので就業規則等の確認も注意が必要です。

 

  1. 決算賞与の通知と異なる額の支払を行った場合

実際の支給日までの間に利益の予想額が異なるなどして支給額を変更した場合には、要件を満たせず損金算入ができなくなるため注意が必要です。

 

■ 税務調査での実務対応

税務調査で決算賞与が確認される場合には、次のような書類の整備が有効です。

– 決算賞与支給決定書:支給日・支給額・対象者を明記

– 従業員通知文(メール・書面):支給額を各自に通知

– 支給記録:銀行振込記録・給与明細

これらの書類を決算日までに準備・保存しておくことが、税務リスク軽減の鍵となります。

 

■ まとめ

決算賞与は、税務上の節税効果を享受できる一方で、社会保険等の負担増や資金繰りの悪化といったリスクも伴う制度です。適切に活用するためには、税務面のルールをしっかり押さえたうえで、労務・財務の観点からも慎重に検討することが大切になります。

詳細な情報や具体的な事例については、専門の税理士にご相談いただくことをおすすめします。

BASE ONE税理士法人では、中小企業・スタートアップ・一人社長の皆さま向けに、貴社の業績とキャッシュフローの観点から最適なアドバイスを提供しております。

税務リスクを最小限に抑えた効果的な賞与活用をお考えの際は、ぜひ一度ご相談ください。

お問い合わせはこちら