1, はじめに
外資系企業が日本へ進出する際、検討すべき進出形態には「駐在員事務所」「支店」「子会社」などがあります。これらの形態は、法的な地位や事業範囲が異なるだけでなく、税務上の取り扱いにも違いがあります。
適切な形態を選択しないと、予期せぬ課税リスクや税務申告義務が生じることもあるため、事前に十分な理解と準備が必要です。
本コラムでは、それぞれの形態について、比較・解説いたします。
2, 日本進出の3つの形態とその概要
観点 | 駐在員事務所 | 支店 | 子会社 |
法人税課税 | 原則なし(PEであれば課税) | 国内源泉所得に課税 | 全世界所得が課税 |
収益を伴う営業活動 | 不可 | 可 | 可 |
登記 | 不要 | 必要 | 必要 |
資本金 | なし | なし | 1円以上 |
銀行口座開設 | 不可(代表者の個人名義) | 支店名義で可能 | 会社名義で可能 |
会計処理 | 本店側で合算 | 本店側で合算 | 親会社とは独立して会計処理 |
①駐在員事務所(Representative Office)
日本でのビジネスを本格的に行うか否かまだ決められていない初期段階では、市場調査、情報収取、広告宣伝等日本で本格的な営業活動を行うための準備的活動を実施する拠点として、駐在員事務所での設置がおすすめです。
なお、駐在員事務所の名義で、銀行口座を開設することや不動産を賃借することは、通常できないため、駐在員事務所の代表者など個人が代理人として、これらの契約の当事者となります。
税務上、恒久的施設(Permanent Establishment:PE)と認定されなければ、法人税の申告義務もありません。
ただし、直接的な営業活動等が確認されるとPEと判断され、課税対象になるリスクがあります。
PEと判断された場合、日本国内における所得について法人税の申告義務が生じるため、設立時および運用時の活動範囲の管理が極めて重要です。
②支店(Branch)
日本における事業展開がある程度具体化しており、本格的な営業活動を開始したい段階では、外国法人の日本支店としての設置が有効な選択肢となります。支店は、日本国内で商品の販売、契約の締結、サービスの提供などの収益を伴う営業活動が可能であり、比較的簡便な手続きで早期に設立できる点がメリットです。また、株式会社(子会社)と異なり、資本金の払い込みが不要であり、外国法人の一部として日本で事業を展開するため、一定の柔軟性を保ちながら日本市場への本格参入を図ることが可能です。
なお、支店の名義で銀行口座を開設することができ、不動産の賃借をすることもできます。ただし、銀行口座開設に手間がかかる(本店の資料が必要など)ことが想定されます。
主な税務論点としては、以下のようなものがあります:
- 内部取引所得の認識
- 親会社からの本社経費の按分と損金算入の可否
- PEに帰せられる純資産に対応する負債利子の損金算入
- 海外所得との関連における外国税額控除制度の適用可否
また、中小法人の軽減税率、交際費の定額控除限度額、法人住民税均等割の税率及び外形標準課税対象法人の判定等については、本店の資本金の額により行う(PE帰属資本を用いて判定を行わない)ことになりますので、本店の資本金が大きい場合には注意が必要になります。
比較的設立が容易で、親会社の指揮のもと事業を開始できますが、会計・税務処理は煩雑になる傾向があります。
③子会社(Subsidiary)
日本市場での本格的かつ継続的な事業展開を前提とする場合や、現地での信用力を高めたい場合には、日本法人(株式会社等)として子会社を設立する形が適しています。子会社は、日本法に基づいて設立された法人であり、独立した法人格を持つため、契約や資金調達においても日本企業としての信用を得やすい特徴があります。
税務上は出資者が日本国外に所在する場合であっても株式会社の法人税と特段の相違はありませんが、過少資本税制等のように論点になりやすい項目は存在します。
3, まとめ
外資系企業の日本進出における形態選択は、ビジネス戦略と税務リスクのバランスを考慮する必要があります。それぞれの形態に応じて、課税範囲、申告義務、届出内容が異なるため、事前に専門家と相談し、最適な形を選定することが重要です。
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