【M&A実践 ガイド】第3回 M&A全体像を完全解説!4つのフェーズでわかるプロセスの基本

【M&A実践ガイド】第3回
M&A全体像を完全解説!4つのフェーズでわかるプロセスの基本

── M&Aの流れと関係者のリアル

M&Aを考え始めたとき、多くの経営者が最初につまずくのは、
「何から始めたらいいか分からない」
「どんな人たちが出てきて、どんな手続きが必要なのか分からない」
という“全体像の不透明さ”です。

よくM&Aのプロセスを「フェーズ」や「ステップ」に分けて図解した資料がありますが、
本質的な理解のためには、まず「何がゴールなのか」を明確にしたうえで、

そのタイミングでの手続きや検討、合意内容、意思決定などが
ゴールに対してどのような意味を持つのかを考える必要があります。

M&Aの“ゴール”とは何か?

M&Aという「取引」におけるゴール

クロージング(Closing)
これは、最終契約で合意した内容に基づき、売り手から株式を引き渡し、買い手から譲渡代金の支払いが実行された瞬間を指します。
いわば、法的・経済的にM&Aが成立したタイミングです。

※本稿では、中小企業のM&Aで最も多い「現金対価による株式譲渡」を前提にしています。
事業譲渡・合併・会社分割など他のスキームでは、ゴールや手続きが一部異なる場合があります。

M&Aという「経営戦略」における真のゴール

買収後の統合(PMI)によって、企業価値が向上すること
買い手側にとっての本当の目的は、買収によって得られる利益やシナジーの実現です。
株式譲渡取引が成立しただけでは、M&Aは「成功」とは言えません。

ただし本稿では、、、
本稿では、あくまでM&Aという「取引プロセス」にフォーカスし、
売り手側にとっての区切りである「クロージング」を一つのゴールとした流れを解説していきます。

M&Aという取引の複雑性

M&Aは、通常の取引に比べ取引金額が大きく、法務・税務・財務・人事など多岐にわたる論点を含むため、一般的な商取引と比べて非常に複雑な取引です。
取引のゴールである「クロージング」だけを見ると、売り手から買い手へ株式が移転し、買い手から売り手へ譲渡代金が支払われる
一見シンプルな2者間の取引に見えるかもしれません。

しかし、M&Aで対象となるのは「モノ」ではなく、「会社」や「事業」です。
そこには従業員がいて、取引先がいて、金融機関との契約、社内業務、知的財産、訴訟リスクなど多くの要素が複雑に絡み合っています。
このような「事業そのもの」を他者に引き継ぐという行為は、関係者への影響も大きく、非常に慎重なプロセスが求められます。。

こうした背景から、M&Aの現場では、過去の実務や経験則に基づいて「一定の型(=プロセス)」が形成されてきました。
これがいわゆるM&Aのフェーズ(段階)ごとの進め方=デュープロセスです。

売り手視点のプロセス概要

本来であれば、売り手と買い手それぞれの立場から見た流れを両方示すのが理想です。
しかし、両者の目的や検討ポイントは根本的に異なっており、両視点を同時に解説しようとすると内容が複雑になり、かえって全体像がつかみにくくなってしまいます。

そこで本稿では、あくまで「売り手にとってのM&Aプロセス」にフォーカスし、段階ごとに何が起こるのかをわかりやすく解説していきます。

このあとでは、M&Aのプロセスを大きく4つのフェーズに分けてご紹介します。
それぞれの段階で「何をするのか」「どのような書面や合意が発生するのか」「どんな関係者が関与するのか」といった実務のリアルを、売り手視点で解説していきます。

ただし、ここで重要な前提があります。
それは──「プロセスは一般的でも、M&Aは常に個別的である」ということです。

同じフレームに当てはめようとしても、業種や企業規模、買い手・売り手の性格、外部環境などによって、進め方や優先順位は大きく異なります。
したがって、本稿で紹介する内容は“あくまで基本形”であり、実際の現場では状況に応じた柔軟な対応が必要である点をご理解ください。

【フェーズ①】
事前準備・タッピングフェーズ

──「誰に、どんな条件で売るか」を見据え、静かに動き出す段階
M&Aの第一歩は、相手探し(タッピング)と呼ばれるプロセスです。

この段階では、まだ正式な情報開示や価格交渉は行われません。
「どんな相手に、どんな条件で売却したいか」を整理しながら、外部に対してごく初期的なアプローチを行っていきます。

<主な取組事項>

  • 売却の背景・希望時期・希望条件の整理(譲渡理由・希望価格・譲渡対象範囲など)
  • 買い手候補リストの作成(業界、エリア、規模感などを踏まえた仮説設計)
  • ノンネームシート(匿名概要資料)の作成と配布
  • 匿名のまま、FA(アドバイザー)等を通じて外部に打診(タッピング)
  • 関心を示した買い手候補と秘密保持契約(NDA)を締結し、会社名(ネーム)を開示

<主な留意点>
この段階での「情報の出し方」や「相手先選定の方針」は、後々の交渉にも影響します。
従業員や取引先に売却の意図が漏れてしまうと、不安や混乱を招くおそれがあります。

また、相性の悪い相手に打診すると、交渉が進んでも途中で破談になるリスクが高まります。
静かに、戦略的に、最初の一歩を踏み出すことが重要です。

【フェーズ②】
基本合意フェーズ

──「売るかもしれない」を「この相手と進める」に変える段階
買い手候補とNDAを締結した後、段階的な情報開示を進め、基本的な売却条件について両社で合意します。
このフェーズでは、まだ最終契約ではありませんが、「この買い手候補と優先的に交渉を進める」ことを一時的に確認し合うステージです。

<主な取組事項>

  • 会社案内、決算書、事業計画などの初期情報を開示
  • 買い手とのトップ面談(経営者どうしの相性確認も重要)
  • 買い手候補先から買収条件の提示(意向表明書:LOI)
  • 必要に応じて条件交渉を行い、初期的な条件の合意
  • 必要に応じて基本合意書を締結

<主な留意点>
提示される買収条件は“仮の条件”であり、まだ流動的です。

この段階で無理に価格を固めるより、相手の本気度・相性・意図を見極めることが重要です。
基本合意には「独占交渉期間」が盛り込まれることが多く、相手選定に慎重さが求められます。
また、開示資料の正確性がDD以降の信頼関係に影響するため、準備段階での整備も重要です。

【フェーズ③】
デューデリジェンス・最終契約フェーズ

──「中身を問われる」フェーズ。すべてを開示し、条件を法的に固める段階
基本合意の成立後、買い手による詳細な調査(デューデリジェンス:DD)が始まります。

この段階では、売り手は自社の実態を包み隠さず提示し、買い手から「本当にこの会社を買っていいのか」を見極められることになります。
その結果をもとに条件調整が行われ、売買条件を法的に確定させる最終契約書(例:株式譲渡契約書)へとつながっていきます。

<主なイベント>

  • 財務・税務・法務・人事・事業などの分野での調査対応(資料提出・質疑応答)
  • 調査結果を受けて、買い手が最終条件を調整・提示
  • 最終契約書(例:株式譲渡契約書=SPA)のドラフト・文言調整
  • 必要に応じて買収条件などを最終調整
  • 最終契約書に調印

<主な留意点>
このフェーズは、クロージングに向けた“最終関門”です。
DDは、買い手にとっての「最終チェック」であり、売り手にとっては「すべてを開示する覚悟が問われる」プロセスです。
調査結果によっては価格の見直しや契約条件の変更が求められ、場合によっては取引中止(ディールブレイク)にもつながるため、丁寧かつスピーディな対応が求められます。
また、最終契約書はクロージングで実行される一連の取引内容を法的に約束するものです。
この書面に署名した瞬間、売り手としての「義務」も確定するため、内容への理解と合意が極めて重要です。

【フェーズ④】
クロージングフェーズ

── 契約を“実行”し、M&Aの取引が完了する最終ステージ
最終契約書で合意した内容に基づき、実際に株式の譲渡や代金の支払いなどを実行する段階です。

ここで初めて、法的にも経済的にも「M&A取引が成立した」といえる瞬間を迎えます。
売り手にとっては、事業を託す決断が現実となる、重要な“着地”のフェーズです。

<主な取組事項>

  • クロージング前提条件の確認と履行(例:取引先の同意取得、従業員承諾手続き、等)
  • クロージング書類の準備・提出(例:株主名義書換請求書、取締役会議事録、等)
  • 売買代金の受領(通常は指定口座への銀行振込)
  • 株式や資産の名義変更、登記変更などの法的手続き
  • 関係者への通知や説明対応

<主な留意点>
クロージング直前で条件が満たされず、取引が延期または中止となるケースもあります。
最終契約書に記載された「クロージング前提条件」を確実にクリアすることが重要です。
また、取引先や従業員など関係者への通知・説明や、各種書類の準備・回収など、売り手側でも多数の段取りが発生します。
こうした実務を確実に進めるためにも、あらかじめスケジュールと役割を整理した“クロージングチェックリスト”を用意しておくと効果的です。

M&Aプロセス設計こそ、アドバイザーの腕の見せどころ

ここまでご紹介したM&Aの進め方は、あくまで“基本形”であり、すべての案件がこのとおり進むとは限りません。
繰り返しになりますが──M&Aには「一般的なケース」など存在しません。
業種や規模、買い手の性質、社長の思いなどにより、実際のプロセスは毎回まったく違う顔を見せます。

その意味で、この「段取り設計」こそが、私たちアドバイザーの腕の見せどころでもあり、実はM&A実務の中でもっとも難しく、重要な部分です。
どのタイミングで誰に何を伝え、どの順番で合意を取り付け、どのようにリスクを織り込むか
──そのひとつひとつに、実務と戦略が問われます。

正直に言えば、この部分をマニュアル的にすべて解説することは不可能です。
なぜなら、交渉の流れは常に“生もの”であり、理屈だけでは捉えきれない現場感があるからです。

だからこそ、あらかじめ「全体像」を知っているかどうかで、判断の質は大きく変わってきます。
このプロセスを見通す力は、売り手自身の安心感にもつながります。

なお、ここで注意していただきたいのは、M&A仲介会社などのサポートでは、この「プロセス設計」を中立的に行うことが難しい場合があるという点です。
仲介会社は、売り手・買い手の両者から報酬を得る「利益相反」の立場で動くため、売り手にとって本当に最適な段取りや交渉が、必ずしも提案されるとは限りません。

私たちは、売り手の立場に立ったFA(フィナンシャルアドバイザー)として、あるいはセカンドオピニオンとしてのご相談もお受けしています。
「今の進め方で大丈夫だろうか?」「この条件で進めてよいのか不安だ」──
そう感じたときは、ぜひ早めにご相談ください。状況が固まる前のほうが、選択肢は多く残されています。

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次回【第4回】では、M&Aにおける「バリュエーション(企業価値評価)」について解説します。
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