【M&A実践ガイド】第5回 デューデリジェンス(DD)とは?
──売り手が知っておくべき調査の流れと対応ポイント──
M&Aの現場では、聞き慣れない横文字が数多く登場します。
その中でも「デューデリジェンス(DD)」は、比較的よく耳にする言葉ではないでしょうか。
ただ実際には、どんな目的で、いつ行われ、何を調べるものなのか──
仲介業者からの説明だけではピンと来ない方も多いと思います。
特に仲介案件では、DDに入る前に「中間報酬」が発生することもあり、
このフェーズを正しく理解しておくことは、実務的にも非常に重要です。
DDは単なる調査ではなく、M&Aの成否を左右する“山場”のひとつ。
本稿では、売り手経営者が知っておくべきDDの位置づけと対応のポイントを整理します。
| 1. M&Aの流れの中で、DDはどこに位置するのか
M&Aは、売り手と買い手のあいだに情報の非対称性が大きい取引です。
売り手は自社の実態を熟知していますが、買い手は限られた時間と資料の中で判断しなければなりません。
それでも、数億円、時に数十億円、場合によっては数百億円という投資判断を下す必要があります。
買い手は意向表明書(LOI)を提示する段階で、法的拘束力こそないものの、
「この会社をこの価格で買う価値がある」と仮説を立て、リターンを見込んで条件を提示します。
その仮説が正しいかどうかを検証するプロセスこそが、デューデリジェンス(DD)です。
DDでは、事業内容や経営実態を多面的に確認し、
想定した収益構造が実際に維持できるのか、リスクや改善課題はどこにあるのかを徹底的に調べます。
買い手の立場から見れば、これは単なる調査ではなく、投資の「最終確認」にあたります。
買い手企業やディールの性質によってさまざまですが、
一般的なDD期間中には、次のような対応も並行して行うケースが多く見られます。
- M&Aの目的や位置づけを社内で明確化・共有する
- 投資対象会社の精査を通じて価値分析と課題整理を行う
- 買収後の事業計画と、統合(PMI)プランを策定する
- 買収後のアクションプランとモニタリング体制を構築する
財務・税務・法務・人事・ビジネスなど、各分野の専門家がチームを組み、
おおよそ1~2カ月程度の期間でこれらの調査を進めるのが一般的です。
| 3. 売り手にとってのDD対応の留意点
売り手にとって、DD対応で最も大切なのは「隠し事をしないこと」です。
後から発覚すれば、取引そのものが破談になりかねません。
誠実な姿勢で情報を開示し、疑問点には丁寧に説明を重ねる――
その積み重ねこそが、最終的に買い手からの信頼を得て、価格維持にもつながります。
一方で、DDの結果は買い手側の内部で整理されるため、
売り手にすべてが共有されるわけではありません。
報告書の詳細や指摘の背景までは開示されず、
「どんな評価をされたのか」がはっきりわからないまま進むことも多くあります。
仲介案件などでは特に、買い手は意向表明(LOI)の段階で、
ある程度のマイナス要素を“織り込み済み”で価格を提示しているケースもあります。
つまり、DDで多少の問題が見つかるのは想定内です。
むしろ「何も出てこないDD」は存在しないと言ってもいいでしょう。
大切なのは、問題が出たあとにどう対応するか。
誠実な説明と迅速な対応を続けることで、信頼関係を保ちながら交渉を前に進めることができます。
特にディールサイズが大きい案件では、質問事項や資料依頼が膨大になるため、
体制面の準備と覚悟も必要です。
DD対応はまさにチーム戦。経営者一人で抱え込まず、アドバイザーや専門家と連携して臨むことが重要です。
|4. DDでよくある発見事項と、その対応パターン
DD(デューデリジェンス)では、ほぼ確実に何かしらの「発見事項(イシュー)」が出てきます。
重要なのは、それを恐れることではなく、どう受け止め、どう対処するかです。
ここでは、売り手オーナーが最低限理解しておくべき対応の考え方を、できるだけシンプルに整理しています。
(買い手側の実務では、さらに専門的で複雑な検討が行われます。その点の解説は割愛しています。)
(1)譲渡価格に反映させる
発見事項の内容が金額的に明確に算定できる場合、最もシンプルな方法は価格調整です。
買い手側での実務視点では、譲渡価額を計算した前提条件(仮説)が修正されるべき内容が見つかったときに、
価格の見直しが検討されます。
例えば、たとえば、DD前には有利子負債が1億円と開示されていたものの、
実際には2億円あったというケースです。
このように明確な数値差異があれば、買い手は企業価値の再計算を行い、価格に反映します。
もう少し判断が難しいのが、利益水準に関する発見事項です。
たとえば、過去の利益が実態より高く見積もられていた場合、
どのように価格へ反映されるかは、もともとどのような方法で価格を算定していたかによって異なります。
買い手は通常、買収後の事業計画を策定して企業価値を算出しています。
その計画の前提となる収益やキャッシュフローに影響が出ると、
結果的に意向表明時(DD前)の価格を修正する必要が生じます。
当然ながら、価格が減少する場合は、
買い手は理由や算定根拠を丁寧に説明し、売り手の理解を得たうえで最終合意することが重要です。
DDでの発見事項がそのまま“減額”に繋がるわけではなく、
双方が納得のうえで最終契約に反映させることが理想的です。
(2)契約書に反映させる
金額では評価しづらいが、今後の事業運営に関係するリスクが見つかった場合は、
契約条件の調整によってリスクを手当てします。
たとえば、
- 許認可の名義変更や契約更新手続きが残っている
- 法務・労務・環境などの遵法体制に一部不備がある
- 特定の契約が曖昧、または法的にグレーな状態にある
こうした事項については、M&Aの取引をおこなうに当たって「きちんと是正する」ことを約束する取り決めを契約書に盛り込みます。
これは売り手から買い手への約束・お願いごとに近い性質で、契約上は「売主の義務」として規定されます。
一方で、売り手と買い手でリスクの見方に違いがあるケースも少なくありません。
売り手は「問題ない」と考えていても、買い手は「将来トラブルになるかもしれない」と懸念する場合、
そのような見解の相違に対しては、最終契約書の規定で、
将来リスクが顕在化したときの責任や対応を事前に取り決めます。
また、会社の価値や将来性に対して意見が分かれる場合もあります。
たとえば、売り手は「これから成長するから、もっと高く評価してほしい」と主張し、
買い手は「そこまでは見込めない」と判断するケースです。
こうした場合も、契約内容の設計次第でリスクを分担しながら着地点を見出すことが可能です。
(契約関連の詳細は、別の回で改めて解説します。)
(3)PMI(統合プロセス)でフォローする
DDの結果、リスクは小さいものの体制整備が望ましいと判断された事項については、
買収後の統合プロセス(PMI)で対応するケースもあります。
たとえば、社内規程の整備、労務管理の見直し、会計ルールの統一などです。
こうした事項は、取引条件に影響するものではなく、
「M&A後に一緒に整えていく」性質のものと考えると分かりやすいでしょう。
(4)ディールブレイク(取引中止)
まれに、致命的なリスクや重大な法令違反が見つかった場合には、
取引自体を中止することもあります。
これは売り手にとっても買い手にとっても避けたい結果ですが、
信頼関係を保ち、将来のトラブルを防ぐための冷静な判断として行われることもあります。
|5. DDフェーズで起きるリアル──買い手社内の温度変化
デューデリジェンス(DD)が始まると、買い手側の本気度は一気に上がります。
この段階では、買い手が自社の会計士や弁護士など外部の専門家に正式依頼し、
相応のコストをかけて調査チームを組成します。
つまり、「お金を払ってまで確認する」わけで、
買い手にとってDDは“最後の詰めに入った証”とも言えます。
ここまで進めば、取引としての確度はかなり高い──これはポジティブな側面です。
しかし同時に、ここからが本当の難所でもあります。
買い手社内では、これまで関与していなかった人たちが次々と登場します。
経営企画、法務、経理、人事、内部監査…。
それぞれの立場からリスクを指摘しはじめ、
「本当に大丈夫か?」「買った後に大変そうだ」「もし失敗したら誰が責任を取るのか」
といった声が上がるのも、このタイミングです。
事業部や経営層が前向きでも、管理部門が慎重論を唱える──。
この構図は、大小問わずあらゆる企業で見られるものです。
M&Aの目的やメリットは理解していても、
リスクを極端に嫌う部署ほど影響力が強く、案件を止めかねない。
DDは、買い手にとって「攻め」と「守り」がぶつかる社内の調整局面でもあります。
つまり、DDフェーズは買い手の本気度と慎重さが同居する“緊張状態”。
だからこそ、売り手としては「買い手がいま何を気にしているのか」を丁寧に把握し、
誠実に、スピーディに対応していくことが大切です。
ほんの小さな誤解や遅れが、熱量を一気に冷ますこともあります。

|6. BASE ONEのサポートと役割──DDフェーズこそ頼ってほしい
DDのフェーズは、M&Aの中でも最も専門性が問われる局面です。
質問への対応、資料整備、契約交渉、会計・税務の整理など、
ひとつ一つが専門的で、かつスピードが求められます。
この段階をスムーズに乗り切れるかどうかで、
最終契約までたどり着けるかが大きく変わります。
BASE ONEでは、関与の形に応じて柔軟なサポートを行っています。
売り手専属のM&Aアドバイザー
BASE ONEが売り手専属のアドバイザー(ファイナンシャル・アドバイザリー:FA)として関与する場合、
DD対応から条件交渉、弁護士と連携した契約書チェックまで、すべてを“成功報酬の範囲内”で一貫支援します。
DD資料の整理サポートや質疑対応はもちろん、
買い手との交渉の背景整理、論点の優先順位づけ、価格・契約条件の調整まで含め、
経営者の隣で意思決定を支える伴走スタイルです。
仲介案件でのスポット活用(部分支援型)
一方で、仲介業者が入っている案件でも、
「DD対応だけ」「税務ストラクチャーだけ」といった部分的なサポートも可能です。
仲介は“中立”の立場であり、DDの中身まで深く入り込むことは難しい場合があります。
たとえば次のような場面では、BASE ONEを“裏方FA”として使っていただくケースが増えています。
- DDの質問が専門的すぎて、仲介では対応しきれない
- 税務・会計論点の整理や説明が必要
- 売り手社内で回答体制を整えるサポートがほしい
- 買い手側からの指摘内容を正しく理解し、反論や代替案を考えたい
ここまで進んでいる案件は、すでに取引確度が高く、
「あと一歩で成約」という段階です。
このフェーズでBASE ONEが入ることで、
交渉の摩擦を減らし、プロセスを確実にクロージングへと導くことができます。
柔軟な連携スタイル
BASE ONEは、会計士・税理士が一体となって対応する体制を強みとしています。
財務・税務・契約・ストラクチャーを横断的に整理できるため、
仲介・他FA・弁護士・会計士との協業もスムーズです。
“自社がすべてを取る”のではなく、状況に応じて必要な専門家と協働し、
最終的に経営者にとってベストな着地を実現します。
DDフェーズは、取引が形になるかどうかの“最後の山場”。
ここでの判断ミスや準備不足が、価格にも信頼にも直結します。
経験豊富な実務家として、BASE ONEはこの難所を共に乗り越えるパートナーでありたいと考えています。
|7. まとめ──DDは“査定”ではなく“信頼の確認”
デューデリジェンス(DD)は、単なる査定やチェックリストではありません。
買い手と売り手が互いを理解し、信頼を築くための最終プロセスです。
どんな会社でも、調べれば何かしらの指摘事項は出てきます。
重要なのは、“何が見つかったか”ではなく、“どう説明し、どう対応するか”。
誠実に、スピーディに、そして冷静に。
この姿勢こそが、最終契約へとつながる最大の要素です。
BASE ONEは、経営者の想いを汲み取りながら、
DDフェーズを含めたM&Aのプロセス全体を専門家として支援しています。
📩 ご相談のご案内
BASE ONEでは初回無料のご相談を実施中です。
- 「ウチの会社の価値はどれくらい?」
- 「希望価格が高すぎるって言われたけど、何が根拠?」
- 「買い手が提示した条件が妥当か見てほしい」
こうしたご相談にも対応しております。
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