IPOだけがゴールではない──グロース市場改革で広がるスタートアップM&Aという選択肢

【コラム】IPOだけがゴールではない

──グロース市場改革で広がるスタートアップM&Aという選択肢

 

|東証改革が突きつけた現実:「上場すれば安泰」はもう過去

2025年10月、東京証券取引所(東証)がグロース市場の上場維持基準を大幅に引き上げることを正式に決定しました。
2030年には「10年で時価総額40億円以上」から「5年で100億円以上」へと基準が強化され、
多くの企業が上場維持ラインを超えるための“第二の成長戦略”を迫られています。

この動きは、単なる制度変更ではなく、日本のスタートアップにとってIPO戦略そのものを見直す転換点です。
これまで「まずはIPO(新規上場)」という考え方が一般的でしたが、
上場コストの高さ、株式市場での評価の厳しさ、ガバナンスや開示対応などの負担を考えると、
「小粒上場」では十分は資金調達や市場評価につながらないケースが増えています。

いまや、グロース市場でのIPOはゴールではなく通過点
むしろ、M&Aによるスケールアップや事業売却(エグジット)を戦略的に活用するスタートアップが増えています。
こうした流れは、「IPOかM&Aか」という二択ではなく、
“M&Aを含めた複線的な成長戦略”を描く時代に入ったことを示しています。

二極化するスタートアップ
──M&Aで拡大する企業と
、売却で次に進む企業

東証グロース市場改革の影響で、スタートアップや上場初期の企業群に明確な二極化が生まれています。
いま、日本のスタートアップエコシステムでは、

  • 他社を買収して事業拡大を図る「買い手スタートアップ

  • 事業売却(M&A)によって次の挑戦に踏み出す「売り手スタートアップ

    という二つの流れが同時に進んでいます。

フォースタートアップス社の最新レポート(2025年7月公表)によると、
👉 2025年上半期のスタートアップM&A動向(For Startups公式レポート)
スタートアップM&A件数はここ数年で右肩上がりに増加しており、
2020年には約90件だったものが、2024年には200件前後、そして2025年上半期だけでもすでに100件を超えるペースとなっています。

一方で、IPO件数は依然として年間30件前後にとどまっており、
出口戦略としてM&Aの比重が急速に高まっていることがわかります。

注目すべきは、未上場スタートアップだけでなく、すでにグロース市場に上場している企業も“二極化”している点です。
すなわち、時価総額100億円を超えて次のステージ(スタンダード・プライム)を目指す企業と、
成長停滞に直面し、M&Aや非公開化(TOB)を通じて再編・再成長を図る企業に分かれつつあります。

この潮流の背景にあるのが、東証による上場維持基準の強化(10年→5年/40億円→100億円)です。
小規模な上場(いわゆる“小粒上場”)では、もはや十分な資金調達や市場評価を得にくくなり、
「上場=ゴール」から「M&A=戦略的な次の一手」へと発想が変化しています。

なお、海外、特に米国ではこの傾向がより顕著で、
CB Insights「Venture Trends 2024」レポートによれば、

スタートアップの約9割がM&Aを出口としており、IPOは1割未満にとどまっています。
日本でも同様に、M&Aを“撤退の手段”ではなく、成長戦略の一環として活用する流れが加速しています。

  大企業が「スタートアップM&A」に積極的な理由

スタートアップの「売り手」だけでなく、「買い手」である大企業の意識も明確に変わり始めています。
背景には、いくつかの要因があります。

  • 自前主義の限界
    技術革新のスピードが早まり、自社開発だけでは新領域に追いつけなくなっている。
    特にAI・SaaS・ヘルスケア・人材テックなどでは、外部技術の取り込みが不可欠です。

  • 上場企業の成長プレッシャー
    国内市場が成熟し、グロース(成長)銘柄としての評価を維持するために、
    新規事業やDX領域のM&Aを戦略的に活用する企業が増えています。

  • 人材獲得・カルチャー転換の狙い
    M&Aを通じて、優秀な人材やスタートアップのスピード感を組織に取り込む動きも加速。
    買収後に創業メンバーが社内で次の事業を立ち上げるケースも珍しくありません。

こうした背景から、いまのM&A市場は単なる「事業承継」だけでなく、
「成長を掛け合わせるための経営戦略」として再定義されつつあります。

  M&A業者からは避けられがちのスタートアップM&A

スタートアップM&Aは、一般的な事業承継型のM&Aとは性質が大きく異なります。
買い手も売り手もスピードを重視しつつ、企業価値の根拠は「実績」ではなく将来性にあります。
そのため、見た目の規模以上に交渉の難易度が高く、実務的にも手間のかかる取引であり、M&A業者からは“敬遠されがち”な領域です。

①FAがカバーしづらい

成長途上のスタートアップM&Aは、案件の性質上、
報酬構造や社内リソース配分の観点から大手FAが積極的に関与しにくい領域です。

FAの報酬体系は成功報酬が中心で、ディールの金額だけでなく、
必要となる作業量・交渉フェーズの長さ・関係者の多さなども採算に影響します。
スタートアップM&Aは、金額規模に比して実務負荷が高く、リスクも読みにくいため、
社内で優先度が下がりがちなのが実情です。

また、担当者個人の評価も「成果額」に左右されやすいため、
経験豊富なメンバーほど、より採算性の高い案件にリソースを集中させる構造があります。
結果として、難易度の割に採算が取りづらいスタートアップM&Aは、
「誰がどこまで深く関与するか」が曖昧になりやすいのです。

② 仲介会社が扱い慣れていない

M&A仲介会社が得意とするのは、オーナー企業による事業承継型のM&Aです。
一方でスタートアップM&Aでは、事業の強みやマーケットの将来性を正しく理解したうえで、
買い手のビジネスをどう補完できるかという“ストーリー”を描く力が求められます。

つまり、単に「この会社を買いませんか?」ではなく、「この技術・顧客・仕組みを取り入れることで、御社の〇〇事業がこう伸びる」という形で、
買い手にとっての“戦略的意味づけ”を整理してから提案することが重要です。

ところが、多くの仲介会社は数のマッチングや相場感の把握には長けていても、こうした“ストーリー型M&A”の構成や資料設計に不慣れな場合が多く、
結果として、買い手に事業のポテンシャルが十分伝わらないまま交渉が進むケースも見られます。

|スタートアップのM&AとIPO、両方を見据えた支援

スタートアップの成長戦略は、もはや「IPOかM&Aか」という二者択一ではありません。
資金調達、アライアンス、上場、M&A──それぞれのフェーズで最適な道を選びながら、
企業価値をどう高め、どのタイミングで出口を選ぶかが経営判断の核心になります。

BASE ONE税理士法人は、顧問税理士として事業の実態を理解しながら、M&AとIPOの両面に対応できる稀有な存在です。
財務・税務・契約の整理から、買い手・投資家・監査法人との交渉支援まで、
「会計と戦略の両視点」で経営者をサポートします。

短期的な“売却”にとどまらず、成長の選択肢としてのM&Aを見据え、
IPOや資本提携を含めた最適なルート設計をともに描く。
それが、BASE ONEが目指すスタートアップ支援のあり方です。

 今こそ、M&Aを“前向きな経営判断”に

グロース市場の改革で「上場」だけがゴールではなくなった今、
スタートアップに求められるのは、柔軟で戦略的な出口設計です。
M&Aは「終わり」ではなく、「次の成長への始まり」。

BASE ONEは、そんな未来を描く経営者の最初の相談相手として、
税務とM&Aの両面から支援していきます。

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